消えてゆく光でなら
草の仕事はほんのわずか―――いちめんの緑の草原で―――ただ蛙の卵を抱き―――蜜蜂をもてなしてやるだけ―――
いいもの、人に感動を与えるもの、自分に満足のいくものをと、どれだけ人は欲張っていることでしょう。社会の中にあって、ただ自分の魂を抱いて、訪れる人あれば、笑顔で迎えるだけでいいのでしょうに。ほんのわずかな仕事を、魂を育てる大切な仕事を、やり続けることでしょうね。魂のレースで身を包み、月日を夢の内に過ごし、干草のように生きていった貴女。
心にはたくさんのドアがあるが―――私はただノックするばかり―――「おはいり」とやさしい答えが聞けるのを―――どれほど待ちあぐねていることか―――
貴女の部屋、片側には死、孤独、悲嘆、苦痛。もう片側には天国、神、愛、自然、―――貴女はドアをノックし続けた、孤独の部屋から神の部屋へ、悲嘆の部屋から愛の部屋へと、だが、貴女が住むことを許された部屋は北側の、孤独と悲嘆の部屋。飛び出しては、南側の神と愛の部屋をノックするのだけれど、「おはいり」の声はない。時に神の部屋の隣に、住まわせてもらえることもあったけれど、しばらくすると追い出された。神の部屋へ入ることを望み、ノックし続けた貴女。死と天国、孤独と愛とを詠うばかり。
消えてゆく光でなら―――私たちにはいっそう細部が見えます―――点りつづける燈芯よりも―――過ぎ去ってゆくものの中には 何かがあるのです―――
死にゆく人が、最後の光で照らし出しているものは、ほんのわずか、生きている時あんなにも身にまとっていた、物、気持が、今はただ一つ。一本の花、一杯の水、一つの言葉―――貴女には分かっていたのでしょうね。若いうちから、一つのものだけを求めて生きてきた。孤独というものへ、人には、満たされるものが一つあれば充分というように―――孤独でなくてもよかったのに―――何故そこにだけ、自分を許したの、誰が命じたの。私は貴女の「死」の章を読む度に呟いてしまいます。孤独の部屋に今も住み続けているような貴女―――。
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