記憶の中に母は居なかったかのように、居なくなった母を求めることもなく、薄い笑いを湛え私を見てくる、おかっぱ頭の髪は縮れ、頬には真っ赤なシモヤケ、少しひび割れている。手も腫れて、甲にはアカギレを切らし、割れ目に血が滲んでいる。何年か前に買ってもらった赤いハーフコート、袖は今では磨り切れ、ボタンが取れかかっている。
養護施設にやられる日、私は妹を見送ったと思う。妹は涙も見せず伯父さんに連れられて行った。
母が居なくなり、父は居たと思う、でも妹は私が学校へ行く時間になると、付いて学校に来ようとする。すばやく走って出ても、暫くして後ろを振り返ると、決まって見つける妹の姿。稲穂の間を見え隠れしながら、道を戻って怒ろうとすると、帰る振りをするが、また暫くすると姿がある。稲田を過ぎ桑畑に差し掛かる頃、私は諦める。給食時間、妹は廊下に立つ、先生は招き入れ、隣に座らせ、給食を与える。
ひもじかったから、納屋に潜って生のサツマイモを探し、妹と二人で齧った。悪戯でもしているように嬉しそうに笑う妹、皮を前歯で剥く仕方を教えてやると、丁寧に剥いて見せた。小さな前歯の跡がサツマイモに刻まれていた。
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